1. はじめに

地球流体科学分野の研究において, 可視化は重要なデータの解析手法の1つである. 地球流体の研究者は衛星観測データや数値シミュレーション等によって生成されるデータを解析する. このデータは一般に多次元の数値データである. データの表現方法として, 折れ線図や等値線図などの2次元平面に表現する方法は人間にとって認識しやすい.

近年, 計算機やインターネットの発展によって多種多様のデータが多量に流通しており, これらを容易に利用することができる. 計算機の計算速度が飛躍的に向上したため, これまでの計算速度では有限な時間内で扱うことができなかった数値計算ができるようになった. また, 世界中に散らばる多様なグループや研究者が生成するデータをネットワーク経由で容易に入手することができるようになった. このような多量のデータを扱うことによって新しい知見につながる. しかしデータが多種多様であるためにデータの扱いを効率よく行わなければ多量のデータを解析することはできない.

データを効率よく解析する手法の1つとして, グラフィカルユーザーインターフェース(以下 GUI)で対話的に可視化する手法がある. データから意図する特徴を探し出しそれを分かりやすく可視化するためには, 指向錯誤を繰り返しながら最適な表現方法を探す必要がある. この作業はバッチ処理のような手法よりも対話的に行う方が効率が良い. GUI ならば操作方法を覚えていなくても直感的に機能を把握することができるため, ソフトウェアに習熟していない段階でも可視化の表現を自由に行うことができる.

研究者にとって各々必要な機能を加え拡張するために, ソフトウェアはソースが公開されかつ改変されることが可能でなければならない. ソフトウェアに求める機能は研究対象によって様々である. 例えばデータに対する演算において精度をどの程度求めるかは研究によって異なる. このような要望は無限にあり1つのソフトウェアに全て実装することは困難である. したがって研究者が各々求める形にソフトウェアを改変することができなければ細かい要望は実現できない.

電脳 Ruby プロジェクト[3]では, 地球流体科学におけるデータ解析, 可視化, 数値シミュレーションに用いるソフトウェアをオブジェクト指向スクリプト言語 Ruby[11] で開発している. Ruby を用いる理由は, オブジェクト指向というプログラムパラダイムを用いるためである. オブジェクト指向では, 多様なデータを統一されたメッセージで扱うことができるためプログラミングの負担を軽減し開発効率を上げることになる. またスクリプト言語ゆえに対話的なユーザーインターフェースを実装しやすいことなども理由の1つとしてあげられる.

電脳 Ruby プロジェクトによって開発された解析・可視化のためのライブラリを利用する GAVE[10](a gtk+ based grid data analyser and viewer writen on Ruby) という GUI の多次元データ解析・可視化ソフトウェアが開発されている. このソフトウェアは地球流体における多次元データの解析を効率良く行うためのソフトウェアである. 本論文ではこの GAVE についての紹介を行う.

以下, 第2章から第3章では GAVE の特徴と機能の概要を取り上げ GAVE がどのようなソフトウェアであるのか解説する. 第4章では GAVE の内部動作について触れる. また, 付録A として使用方法をまとめた. 付録B として電脳 Ruby プロジェクトについてまとめた. 付録C で GAVE が依存するライブラリをまとめた.

なお, 本論文で対象とする GAVE のバージョンは 1.0.0-beta4 である.